アナスタシア
あらすじ
記憶を失くした孤児のアーニャは、詐欺師のディミトリと出会い、パリにいるロシア皇太后マリーを目指して旅に出ます。1997年のドン・ブルース監督によるアニメーション・ミュージカル映画です。
ネタバレ無し
ロシア革命を舞台にしたファンタジー・ミュージカル
1917年のロシア革命と、ロマノフ王朝の末娘アナスタシアにまつわる伝説をベースにしたアニメーション映画です。歴史的な背景を持ちながらも、記憶を失った少女が自分の出自を探す旅と、そこで芽生えるロマンスを中心に描いたファンタジー仕立ての作品です。楽曲が随所に挟み込まれるミュージカル形式で、音楽が感情の流れをうまく引っ張っていきます。制作はドン・ブルースとゲイリー・ゴールドマンによる20世紀フォックスで、同時代のディズニー作品と雰囲気は近いですが別スタジオの一本です。
アーニャとディミトリ、噛み合わない二人のテンポ
主人公のアーニャをメグ・ライアンが、詐欺師のディミトリをジョン・キューザックが演じています。ケルシー・グラマーが演じるウラジミールがディミトリの相棒として絡み、コミカルな三人組として旅のパートが進みます。アーニャとディミトリは出会った当初から言い合いばかりで、互いに利用し合う関係から始まります。この二人がパリへ向かう道中でじわじわと距離を縮めていく流れが物語全体の軸になっていて、見やすいです。悪役のラスプーチンはクリストファー・ロイドが声を担当しており、呪術的な力でアーニャの命を狙い続けます。
「懐かしい歌を」とCGと手描きの融合映像
本作で特に印象的なのは、廃墟となった王宮でアーニャが幻影の宮廷舞踏会を体験する場面で流れる「懐かしい歌を(Once Upon a December)」です。このシーンはCGで作られた舞踏会の空間に手描きのキャラクターが溶け込む形で描かれており、奥行きと動きの質が独特です。かつての記憶の欠片がよみがえるような幻想的な映像で、音楽と相まって見ていて引き込まれます。背景美術も丁寧で、雪の中のロシアの情景やパリの街並みなど、場面ごとに異なる雰囲気が楽しめます。
ディズニーではやらないラスプーチンの不気味さ
本作の悪役ラスプーチンは、ディズニー作品とは一線を画す造形をしています。腐敗した体の一部がぼろぼろと崩れ落ちたり、神経のようなものが体からびよびよと伸びたりする描写があり、子ども向けアニメとしてはかなりグロテスクな部類に入ります。ドン・ブルースはもともとディズニー出身の監督で、「ランド・ビフォア・タイム」や「アメリカ物語」などの作品でも子どもを怖がらせるビジュアルを厭わない演出をしています。この作品のラスプーチンも、笑えるコミカルさと本物の不気味さが混在していて、ファミリー映画の悪役として記憶に残る存在でした。
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ディミトリが報酬を断る瞬間
ディミトリとウラジミールはアーニャをアナスタシアに仕立て上げて皇太后マリーから報酬をもらう計画でしたが、旅を続ける中でアーニャが本物のアナスタシアだとわかっていきます。皇太后マリー(アンジェラ・ランズベリー)との対面でディミトリは本物と証言した上で、報酬を受け取らずに去っていきます。最初は金目当てで動いていた人物が、自分の感情に正直な選択をするこの場面が、物語の中で一番気持ちの動いたところでした。
ラスプーチンとの決着
ラスプーチンはアリムカゼという魔法の小瓶を操ってアーニャの命を何度も狙います。クライマックスはセーヌ川沿いで、アーニャが直接ラスプーチンに立ち向かう場面です。小瓶を踏み砕くとラスプーチンの体が崩れていくという結末で、テンポよく決着します。相棒のコウモリ、バルトーク(ハンク・アザリア)がラスプーチン消滅後に自由になって旅立つラストは、重いシーンへの後味を軽くしてくれます。
皇太后マリーとの再会
アーニャが祖母の皇太后マリーと再会するシーンは本作の感情的な頂点です。失われた記憶が少しずつつながっていく過程を、セリフよりも表情と音楽で見せていて、静かながらも印象に残ります。皇室に戻るかディミトリを選ぶかという迷いが描かれてから結末に向かうのが、キャラクターとして自然な流れでした。最終的にディミトリを選ぶアーニャの選択は、ロマンスとしてすっきり締まっています。
歴史と創作のバランス
実在のアナスタシア皇女は1918年に処刑されたとされており、本作のストーリーはフィクションです。ただ当時、「アナスタシアが生きているかもしれない」という伝説が根強くあったことがこの題材の背景にあります。歴史の正確さよりも、キャラクターと音楽で引っ張るミュージカル映画として割り切って楽しめる一本で、1990年代のアメリカンアニメーションとして完成度の高い作品です。






